司馬遼太郎の新書『ビジネスエリートの新論語』を読んだので、私見を残しておきます。
やたらとデカいオビに「20年ぶりの新刊!」とありますけど、まぁウソです。実は、昭和30年に本名の福田定一の名で刊行されています。その復刻ですね。
どんな本?
ビジネスマン啓発本ではない
産経新聞記者だった司馬遼太郎が、歴史上の格言・金言を持ち出してビジネスマンの仕事や生活に当てはめて咀嚼といった内容ですが、「ビジネスマンとは?」「仕事とは?」といった難問を頭をひねって考えるといったものではありません。
元のタイトルは『名言随筆サラリーマン ユーモア新論語』で、会社に束縛されたサラリーマンの「苦悩」と、あくまでもそれに伴う「幸せ」を切りだしてきて、それを「ユーモア」を持って笑おうという主旨だと思います。
なので、『ビジネスエリートの新論語』とかいうタイトルにつられて自己啓発に役立てようと思っちゃうとちょっと違うかもしれませんよ。
サラリーマンの哲学は儒教?
以下はこの本の序文の一部です(Amazonより)。これを読むと司馬遼太郎のこの本におけるスタンスがわかって、おそらくファンの人は安心するんじゃないでしょうか。司馬遼太郎としてのデビュー前でも、その後の小説やエッセイでの司馬遼となんら変わりのないスタンスを確認できるでしょうから。
これによると、戦後のガムシャラなサラリーマンの原型を江戸時代のサムライに求め、そのうえでその「哲学」を儒教に求めたとありますね。この視点こそ司馬遼太郎、といったカンジがします。
サラリーを得て仕事をするということ
現代社会でサラリーマンとして働いている人たちの中には、漠然と「このままで良いのだろうか」という不安を抱えている人が多いと思います。本やネットを見れば起業だ独立だといった情報がワンサカあって、風潮としてあたかもそれが正しいと思わせられます。
そんな社会の中で会社員として働くときに、この本はエールを送ってくれます。
会社という組織の中で仕事を確実にこなすことは悪ではありません、そこで得られる幸せは空虚ではありません、頑張れサラリーマン!と背中を叩いてくれますよ、あの“らしい”文章で。
昭和30年の刊行ですので全然今の時代とそぐわないことも多々書いてありますが、それでも改めて「仕事」について考えるときに当時の時代の空気を感じてみるのも悪くないですよ。
とか言って、本人は新聞記者というサラリーマンを辞めて小説家になっちゃってますけどね。それも面白いところです。
最後に
もう一度書いときますけど、「ビジネスマンとして自分を鍛える」とか「仕事とは何かについて追求する」とか、自己啓発みたいなことのために鼻息荒く読んでもあんまり意味はないと思います。
簡潔にいうと、この本の価値は福田定一として刊行された本である、というところのみかも知れません。ただしその「価値」は「歴史的価値」でしょう。だからやっぱり司馬遼太郎ファンじゃないとあんまり楽しめないかも知れませんよ(割とガチで)。
ではまた。