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とある夏の日の初恋

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会社の若い同僚が、先日いっしょに車に乗っているときに「古い昔の歌好きなんだよねー」とかいって80年代~90年代の歌を自分のスマホから流し出したしました。ぼく的にはドンピシャなわけで「おーいいね」なんて言いつつ聴いていたら村下孝蔵さんの『初恋』が流れてきました。

初恋~浅き夢みし

言わずと知れた名曲でぼくも好きな歌だったもんでそのまんま「この歌好きやなー」と言ったら、その若造は「コバヤシさんに初恋なんてあったんだ」とかぬかしやがった。

失敬な。

でもまぁ、それで強烈に“初恋”について思い出しちゃったので書いとくことにします。卒爾乍ら。

「幼稚園のときに先生を好きになった。それが初恋かな」なんてやつじゃなくて、ガチなやつ。

バスケ部のあの子

ぼくは中学のころバスケットボール部でした。

顧問の先生が男子と女子両方を担当していたので、合同練習も多く、5対5の練習も男子対女子とかでもやってて、男子バスケ部と女子バスケ部の距離は他の学校よりも近かったと思います。練習コートも隣だし。

中学生になってバスケ部に入部したてのころ、女子バスケ部の1年生の中に、ひときわぼくの目が捉えちゃう子がいました。「なんかあの子カワイイな」

仮にKさんとしましょう。

Kさんは細身で、顔がちっちゃくてショートカットで、目が細くて目じりが若干上がってて、鼻がクルッと丸くて口がちっちゃい子でした。なんか字で書いたらぜんぜんカワイクないな。まぁ、それはぼくの表現力のなさ。しかしそんなことより、その佇まいや雰囲気が可愛らしい子でした。

でも、中学生の男子といえば「あ、あの子カワイイ。あ、その子もカワイイ」なんつって目移りして困っちゃう時期であり、Kさんもそのときは複数いるカワイイ子のひとりでした。

同じクラスに!

さて、2年生になりました。新しいクラスの教室に入ると、そこにいたんです、Kさんが。

「おっ、ラッキー」なんて思いつつ席に座る。男女横に並んで名前の名簿順に座るので、ぼくとKさんの距離は近かった。ていうか、ぼくの左ナナメ後ろにKさん。

席に座ってしばらくボケッとしてると、ぼくの左肩をトントンと誰かが叩く。何となく左ナナメ後ろに集中していたぼくの心臓がドキィっ!!!としました。はい、ここでオチた(男子なんて簡単)

しかし「オチました」なんて顔ができるわけもなく、当時っから「目つきが悪い」と評判だった顔で「あ?」と左ナナメ後ろに振り向くぼく。

「クラスいっしょだったね!よろしくね!」とかいうKさん。バスケ部で1年共にしてたわけで、それなりに仲良くはなってたんですよね。

すでにオチてるので「うわぁ向こうから話かけてくれた話かけてくれた話かけてくれた!」とか舞い上がってるのに「なんやクラブいっしょやのにクラスもいっしょかー。たまらんなー」とか言うバカ。

そんな始まりで2年生がスタートしましたが、ぼくはドンドンKさんに対する恋心を育みつつそんな気持ちを決して表に出しませんでした。そんなことはできませんできませんおっかねぇ。

そして、気が付けばかなり仲の良い友達になっていってるぼくとKさん。もうすぐ夏休み。しかし、ぼくは日を追うごとに泣きそうになってました。

引っ越し

なぜなら、ぼくは父親の転勤で引っ越すことに決まっていたからです。ウチが何度も引っ越したってことはだいぶ前に書いてますね、そういえば。

中2の夏、埼玉から大阪に戻る引っ越しの時期ですね。しかも、引っ越すのは夏休み中、8月の上旬。

それまでにどうするんだどうしようKさんのこと。その頃のぼくの頭の中はもうそれだけ。

当時は付き合うとか付き合わないとかそんなに考えてませんでしたが、ぼくの気持ちは伝えたい。しかし伝えたところでどうしようもない。引っ越すんだから。だったら今の仲の良い友達のままでもいいんじゃないか。そうだそうだ。でも伝えたい。

気が付けばKさんちの前に立ってることもありました。もちろん何もしないで逃げ帰ってきました。電話しようとか思い立ち、電話の前で電話を指さしながら小一時間つったていたこともありました。

そんなことを繰り返してるうちに近づいてくる夏休み。

林間学校

どこに行ったのか全然覚えてませんが、夏休みに入ったら2泊3日の林間学校がありました。林間学校ってやっぱりクラス単位で動くことが多いです。

「ここや」とぼくは一人で興奮してました。きっと何もしないことは分かってたんですけど、何せ林間学校が終わると10日後には引っ越しです。奮起せずにはおれません。しかも、最後の日の昼メシは飯盒炊爨でカレーを作るんですが、薪割りの担当がなんとぼくとKさんになりました。「ここや」

もう最後の日の薪割りで頭がいっぱいで、本当にどこに行ったのか何をしたのか全然覚えていません。そんなこんなで最後の日。

ここまで林間学校で2日経ったわけですけど、ぼくが夏休み中に引っ越すことは耳のはやい連中は何となく知っていたようです(どこから情報仕入れるんだ)。しかし、Kさんは全然知らないようでした。有難いような、有難くないような。そんな複雑な気持ちを抱きつつ、Kさんと2人で薪割りです。

「コバヤシくん、割ってね。私、力ないから」

「おうアッタリマエやろ任せとけ。じゃあ、薪をここにおいて」

「うん」

ナタを持つ手が震え、薪がなかなかうまく割れなかったは薪割りが初めてだったからなのかどうか。

「なかなかウマくいかないね。大きさバラバラだよ」

「ええねんええねん、どうせ燃えてまうからええねん」

「そうだね。フフフ」

「………」

「………」

「………」

「ねぇ」

なんやなんやなんやなんやなんや!パニック!

「もうすぐ新人戦だね」

なんだそんなことか!

「せやな。まぁ俺はまだわからんけどKはレギュラー確定やろ。頑張りや」

「コバヤシくんも大丈夫でしょ。一番動けるポスト(センター)じゃん」

「まぁな。でもスタミナがない」

「もっと走り込まないとだめだよ」

「しんどいわ。めんどくさいし」

「もったいない。それさえやればレギュラー間違いなしなんだけどなー」

「うるせぇ」

会話はむっちゃくちゃ楽しいんですけど、ぼくが話したいのはそんなことではありません。でも何の取っ掛かりもないまま、バスケ部の話に終始して薪割りは終わってしまいましたとさ。

最後の日

結局何もないまま林間学校は終わりました。そして夏休み本番です。でも、2学期にはぼくはもういない。

すると、担任の先生が機転を利かせてぼくが引っ越す前の日にクラスのみんなを学校に集めてくれることになりました。さすが。1年のときからぶっ通しで担任で顧問という腐れ縁。

その当日までにも、ぼくはKさんに対して何のアクションも起こさず起こせず。ついに学校で集まる日になりました。

最後です。最後の日です。

教室に入ると、一斉にぼくのほうを見るクラスメイトたち。その中にKさんはいました。が、ぼくに群がるバカ男どものせいでぼくは何もできません。どけ!お前らどけ!おれにはすることがある!なんてバカ男どもをかき分けてKさんの元に行き、………なんてことは出来るはずもなく、担任が入ってきてみんな席につきました。その頃は席替えもやってるし席も遠い。なすすべなし。

手紙

その日、ぼくはクラスのみんなから手紙をもらいました。誰かが声をあげてみんな書いてくれたらしい。

ぼくはその手紙を新居に向かう新幹線の中で読みました。上から順番に読んでいって「さ、次…」と手を伸ばしたらそれはKさんの手紙でした。

一瞬戸惑い、しかし手に取り、Kさんからの手紙を読む。

「引っ越すなんて知らなかったよ。分かってたら林間のときにもっともっと話したかったな。薪割り楽しかったよね。向こう行ってもバスケ続けるんでしょ?全国大会で会おう」

要約するとそんなことが書いてありました。「全国大会?無理やろー」ぼくは笑いながら何もしなかったことを後悔しつつ、次の手紙を読むためにまた手紙の束に手をのばしました。

最後に

以上です。

人のショボい初恋の話にお付き合いいただきありがとうございました。初恋を書くなんて、とんだ恥晒しです。チクショー、アイツが思い出させるからこんなの書くことになんねん!

でもまぁ、初恋なんてものは大体こんなものではないので?それとも最近の若い子とかはバンバン告白とかしちゃうんでしょうか。LINEで?しょーがないな。

さぁ、次はアナタの“初恋”を是非聞かせてください。